:: 白い影 ::
文と絵:娘子

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汽車を待っていた。
日が沈んでもまだ暖かな春の陽気を感じながら、ぼくはプラットホームのベンチに腰掛けて汽車を待っていた。
花達の芳しい香りが漂う中に満月がぽっかりと浮かんでいた。
遅いなぁ〜。汽車がくる方向に目を向けるとようやくライトの光が見えてきた。
時刻より1時間も遅れていた。
汽車は大きいブレーキ音を轟かせ、ホームに滑り込むと同時にドアが開き、大勢の乗客たちが改札へと急いでいった。
すっかり夜になっちゃったじゃないか。次の街に着くのは真夜中かぁ。
宿取れるかなぁ、街の中で野営なんて冗談じゃないよ〜。
やっぱりこの街で宿をとったほうがよかったかなと少し思ったけど、朝から次のマーケットに向かいたかったぼくはそんな考えをふり払って、大きいリュックを背に汽車に乗り込んだ。

ぼくはジロサ。うさぎの亞人。
亞人とは、獣から人のように進化したもの達のことをいうんだ。
人のように立って歩くことはもちろん、人語を理解し、話すことができる。
亞人にも進化の過程で様々な姿をしている。
獣の姿を残したままの姿や人とあまり変わらない姿をしていたり。
ぼくの場合は基本はうさぎ。
だけど普通のうさぎと違うのはさらによく聞こえる耳が3つにバランスが取りやすい長いしっぽ。
これが進化の証。
身長は1メートルくらい。
外見は自分でいうのもなんだけど、かわいらしく、動く大きなぬいぐるみって感じ。
けれどばかにすることなかれ。世界各地で行商をして、たくましく生きている。
商品がぎっちり詰まったリュックと首から下げた大きながま口がぼくの仲間。
この日もいつもと同じように安宿に泊まって、一人でベッドに入るはずだった。

一日中行商をして、足は棒のようになっていた。
重いリュックをうんしょとしょい直すと腰を落ち着かすために席を探した。
汽車の中は乗客もまばらでがらんとしていた。
それもそのはず、このマルセ駅のある街、シエルマルセは大陸で一番大きい街だからだ。
にぎわいも住んでいる人の数もこの街の右に出る街はない。
ここから乗る人なんて、ぼくみたいな旅人ぐらいなものだ。

汽車は大きく汽笛を響かせると駅をあとにした。
広大なジルド大陸を横断するジルド大鉄道で、東へ向かう。
次の街まではモンスターが徘徊していそうな荒れ地ばかりが続く。
モンスターかぁ、出来るなら会いたくないなぁ〜。
ぼくは剣術や魔法とか全く出来ないから襲われたら大変なんだけど、でもこの汽車には魔除けの大魔法がかかっているから、安心、安心。
汽車はスピードを上げて、街をすり抜けてゆく。
まばゆい光を放つ市街地を過ぎると灯りもとぎれとぎれになり、やがて車窓は真っ黒い闇ばかりを映すようになった。

長席の真ん中に荷物をどかんと置くと足を投げ出して座った。
ふ〜、疲れたなぁ。大きいマーケットだったのに、なかなか売れなくて。
う〜ん、品揃えが受けなかったなぁ。
リュックの中をかき回して、薬瓶や小型の弓や剣類を確かめる。
次の街は小さいから街全体が品薄だろう。きっと、さばき切れる。
薬とか高値で売れるかも。
そしたら少し高めの宿でお風呂にゆ〜っくり入って、お腹いっぱい食べよう、ふふふ。
ふと気が付くと、向かいの席には10代も前半の男の子が座っていた。
握りしめた両の手を膝に揃えて置いている。
大きめの帽子をかぶり、黒いコートで身を包んでいる。
脇にはエルフの
文字らしきものがびっしり書かれている杖が置かれていた。
外の風景を見ているようで横顔しか見ることは出来なかった。
けれど真っ黒の車窓に映し出されるその顔はまだまだ幼なかったが、きゅっとしめた口元とまっすぐに見すえた瞳に何か決するものがあるように感じた。
魔法つかいか、でも一人なのかな。親はどうしたんだろう。
きょろきょろと車内を見回してもそれらしき人は見あたらなかった。
親がいれば商売できるかも〜と商人魂が頭をかすめたが、その少年には直接言葉をかけることは出来なかった。
('03.02.20

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