:: 白い影 ::
文と絵:娘子

<6>
その涙は・・・。

ぼくは夢を見てた、落ちる夢。
水の中を下へ下へと・・・。
苦しくてもがいていると、急に水がはけて、空へと放り出された。
ぼくはそれでも何かをつかもうと必死になっていた。指の先には、誰かがいて・・・。

・・・・・・、・・・ロ・・・、・・・・・・サ、ジ・・ロサ、ジロサ、起きて、生きてるんでしょ!

う、うん・・・?
がくがくと体を揺らされて、ぼくは夢から覚めた。
あ、あれ?落ちてない・・・。
がばっと起きあがると、確認するように自分の体をさすった。・・・生きてる・・・?
それでもまだ、夢を見ているような気がして、手で地面を確かめると、土の感覚がとても心地よかった。
「良かった〜。生きてた!」
ぼんやりした目に真っ先に飛び込んできたのは、ずぶぬれのベンジャミンの顔。
といっても、彼がすぐに抱きついてきたから、すぐに見えなくなっちゃったんだけどさ。

かなり流されてきたみたいで、ぼくたちは湖のほとりにいた。
ほうほうとフクロウの鳴き声が、遠くから聞こえてくる。
湖は何事も無かったように月の光を映し、静まり返っていた。
ベンジャミンはぼくを解放すると、ほっとした表情でぼくの手を握りしめた。
「けがは無いみたいだよ。良かった。」
あそこに流れ着いていたんだよと彼の指が差した場所からここまで、ぼくをひきずった跡が続いていた。
重かったろ、ごめんね・・・。
彼の手の暖かさに、ぼくは生きていることを実感した。
ベンジャミン、大丈夫だった・・・。良かった〜って、安堵感が体の底から沸いてきた。

「助かった〜、はぁ〜・・・。良かった〜。」
「うん、良かった、良かったよ・・・。」
今まで冷静に話していたベンジャミンの瞳から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれた。
「うぅ、ひっく、良かったよ〜・・・。生きてて、ジロサ・・・。うわあぁ〜ん!」
彼はぼくの存在を確かめるかのように強く抱きしめると、声を上げて泣いた。
その泣き声は大きくて、森の中へ響き渡っていた。
・・・思い出させたかな、ごめんよ・・・。
ぼくは(手が届かないけど)、ぎゅって抱きしめてあげた。
「うん、大丈夫、大丈夫だよ・・・。」
彼は何度もひゃくりあげながら、泣き続けた。
あたたかい涙はぼくに滴っていった。気持ちが体にしみていく。
それは助かっただけでなく、今までの苦しいこと全てを洗いながす涙だった。
・・・たった一人で辛かっただろうに・・・。
気の済むまで泣きな、全部受け取ってあげる・・・。
これからはもう、あんな横顔しないようにしてあげたいな・・・。
ぼくは彼の背中をさすってあげながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

涙のあとを可愛いほっぺにつけて、ベンジャミンはやっと泣きやんだ。
ムリして泣くのを止めたみたいで、たまにしゃくりあげるけど。
心配気にのぞきこむと、照れながら「大丈夫だってば!」とつっぱられた。
ふふふ、戻った、戻った。
それにしても彼を見てると、さっきの恐ろしい出来事は夢だったんじゃないかって思えてくる。
カンジャにもびっくりしたけど、それ以上に、彼があんなに魔法使えるなんて。
「ほんとに魔法つかいなんだね。びっくりした!でも、一度に使いすぎだよ。あれじゃ、すぐばてちゃうよ。」
「え、そうなの?だって、本の中の魔法つかいは、ばんばん使ってみせるよ。」
ベンジャミンは怪訝そうに首を傾げた。
またか〜、さっきもあったぞ、この場面。
「本の中の魔法つかいととベンジャミンの力の強さは違うだろ〜。」
「そっか。ぼくの力じゃ、あんなに使っちゃいけないのか〜。」
ふむふむって、一人で納得してる。
・・・と言うことは?答えは想像できるけど、やっぱり聞いてみる。
「もしかして、戦闘はじめてだったの?」
彼は、うんって元気にうなづいた。
あちゃ〜・・・、攻撃魔法を繰り出す君は、とっても頼もしかったのに〜。
頭、くらくらしてきたよ・・・。ぼく、ほんとに危なかったのかもしれない〜・・・。
あぁ、なんてムボウなんだ、この子っ!

ぼくは半ばあきれながら、続ける。
「あ、あのね〜。魔法がうまくいかなくて、最悪なことになったらどうするんだよ〜?」
「だって、ぼく、学園で首席だったから、大丈夫かと思って。」
そっか、学園に住んでいたんだよな。年の頃から言うと・・・。
「首席って、中等部の?」
「うちは高等部と大学部しかないよ。」
なんか、いや〜な予感。「・・・まさか。」
「うん、大学部のだよ」とベンジャミンはにっこり。
ぼくは目が飛び出さんばかりに驚いた。
「え〜?!だ、だって、何歳なの?取れるの、そんなの?」
ぼくがパニクっていると、彼はさらっと答えた。
「飛び級って言うんだよね。おじいちゃんがばんばん進めるからさ。歳は12だよ。」
さらにえ〜って、大きな叫び声が辺りにこだました。
ぼくのあんぐりした顔を見ながら、何で〜って不思議そうに、ベンジャミンは首を傾げた。
そのしぐさが子供らしくて、頭脳は並の大人以上なんて信じられなかった。
はぁ〜、そうか、納得。それで、言うことは大人なのか。
おじいちゃんの話の時に、子供にしてはまとまった話し方だなって思ったんだよ。
でも、最初にぼくに飛びついてきた彼を思いだして、ぷっと吹き出した。
頭脳は大人でも、行動やしぐさはどうやってもやっぱ、子供なんだものっ!
吹き出したぼくに、ベンジャミンは「何で笑ってるの?」って聞いてくるけど、教えられないよ。
しまいに、彼は「変なジロサっ!」と言って、ぷーっと頬をふくらませた。
あはは、可愛いっ!やっぱ、子供だねっ。
('03.04.03)

>> <7>
> <5>

>> back to Story



このサイトで使用しているイラスト・文章等の著作権は「娘子」にあります

無断で転載・複製・加工・再配布等を行うことを禁止します


>> Fortune Scape
Copyright(c) 2001-2006
Musumeko All rights reserved .

>> back to top