:: 蒼い森の少女 ::
文と絵:娘子

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お父様は仕方なく、洗礼式に・・・。
あたしの住む町、ブラングランジ町はジルド大陸の東にある。
小さいけれど、人の集まるにぎやかな町。
南のほうが市場になっていて、そこは各地から集まった人や物であふれかえっている。
とっても活気があるの。

中央には教会がある。町の人たちが光の女神に礼拝するところ。
お父様が毎朝、町の「結界」を張りに行くところ。
お父様の名前はハンス・V・ウェルハント。
この町の町長。
見上げちゃうくらい背が高くて、おっきな肩に太い腕。
町のために走り回って日に焼けた肌に刈り込んだ黒い髪、赤みがかった茶色の瞳。
ちゃんと手入れしているはずなのに、無精ひげみたいに見えちゃうおひげ・・・。
剣も魔力も強くて、町の人たちに慕われている、自慢のお父様。
そして、この町の「守り人」。
「守り人」って、町や村に悪しき者が入ってこないように、「結界」を張る魔力の強い人のことを言うの。
魔力で町や村を守る人。
うちは代々、町長の座とともに「守り人」も勤めてきたの。
おじいちゃんもそのまたおじいちゃんも。
でも、それはお父様で終わり。
だって、あたしは・・・、「見放された子」だから。
日が傾き、あたしの頬を紅く染めていく。

この世界の生きとし生けるものは、精霊に守護されているの。
火聖・水聖・風聖・地聖のうち一精霊の恵みをその身に受けて、生まれてくる。
人間や獣はもちろん、小さな虫や植物も。
そして、体の中に「珠」を抱いて生まれてくるのよ。
それは透き通っていて、美しく清らかに輝いている玉。
私たちの心・精神そのものでこれを失ってしまったら、ただの生きている肉になってしまう。
「珠」を持たないでこの世に生まれることは珍しくて、生まれてきても数週間と生きることは出来ずに、死んでしまうと言われているわ・・・。
「見放された子」。
人はその子供を、そう呼ぶの。

この世で「珠」を見ることが出来るのは、女神に選ばれし神官だけ。
生まれてすぐ、光の女神に洗礼名をもらう洗礼式で、どの精霊に守護されているか見てもらうの。
それは子供がこの世に生を受けた嬉しい儀式だというのに、あたしを抱いたお父様は悲しい顔をしていたという。
あたしを生んだばかりだというのに、お母様は姿を消していた。
お父様は仕方なく、ばあやと一緒に教会に行ったって。
遠い町から来た神官はあたしを見るなり、無常にもすぐに死んでしまうだろうと宣告した。
お父様はあまりのことに、その場に立ち尽くしていたっていうわ。
私には「珠」が無かったんだ・・・。
でも今、私は8才。
生きている。こうやって動くことも考えることも出来る。
大丈夫、これからも生きていける・・・。
・・・でも、怖い・・・。
あたしは、明日ここにいる?
明日の朝の光を受けることが出来る?
・・・誰か教えて・・・。

「珠」を持たずに生きているあたしを、町の人たちは気味悪がって近寄ってこない。
中には「悪魔の子」という人もいる。
町長の娘だからあいそよくはするけど、そんなの上辺だけ。
町を歩けば、白い視線が痛いほどつきささり、同じ年頃の子供達は近寄ってもこない。
だから、あたしは友達という言葉も忘れていた。
あたしを普通に見てくれるのは、お父様とばあやだけ。
お父様はいつも仕事で忙しくて、あたしを気にも留めてくれないけど・・・。
あたしはいつも家で一人、本を読む。
遠い世界に夢の翼を広げながら。

空を焦がしながら、夕日が沈んでいく。
様々に移り行く空の色。
お父様の口癖・・・。
「お母様は優しく綺麗で、とても素敵な人だ。「しあわせの降る場所」でお前がしあわせであるように見守っている」
「しあわせの降る場所」。
そこはしあわせがふりそそぐ場所で、どんな者でも幸せになれるという。
お母様はそこにいるって、お父様は言う。
うそよ・・・。
そんなもので、あたしはだまされないんだから・・・。
どうしてお父様は、お母様の話なんてするんだろう。
あたしは会いたいなんて、一度も思ったこと無い。
お母様は消えた・・・。
それは突然に、身の回りのものすべてを残して・・・。
あたしがこんな体で生まれたから・・・。
精霊から見放された子だったから。
逃げたのよ、あたしが怖くて・・・。
たとえ生きてどこかにいようとも、あたしは会いたくない。
しあわせに暮らしているなんて、聞きたくもない。

あたしは真っ暗になるまで、そこで空を見ていた。
下の方でエルザの呼ぶ声が聞こえてきたけど、返事なんかしなかった。
('03.10.18)

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